激流戦隊気田川作戦報告書

<春のミレニアム遠征ドレイ粗沈作戦>

〜 激流戦隊大ダメージ! 〜


[2000年春季遠征]


第1日 午前 〜 風と岩瀬とドレイの沈と。

 「えーーーっ!! あんなとこ、カヌーじゃ行けないですよっ!! 行けるわけないですってぇ〜!」

ドレイ・ニシモトが真剣な顔で叫んだ。
 ヤツの指さす先には2級弱のちょっとした瀬が見える。流れが狭まり左側の崖に集まってぶつかったのち、右側に大きくクランクしている瀬だ。ちょっとテクニカルだが、流れのパワーはたいしたことないので、全然問題ない。

 「行けませんよぉ」

 ドレイ・ニシモトが繰り返す。おれたちは首をひねった。

 「???」

 いったい何を理由に「行けない」などと思い込んでいるのだろう。あの程度の瀬を越えられないようでは、カヌーなど公園の池でぽちゃぽちゃやってるボートと大差ないではないか。
 おれは突き放すように冷たく言った、

 「何を基準にそんなことを言うんだ? ぐたぐた言っとらんでさっさと行くぞ」

 我々はクルマに乗りこみ河原に降りた。



 ここは、静岡県・春野町、気田川の河原である。山間部をうねるように蛇行し天竜川に合流する小さな川だ。何より水質が良いことで知られ、一説には四万十川よりもきれいだと言われている。
 我々は激流戦隊2000年遠征の第1弾としてこの川を選んだ。
 隊員は、隊長兼CEOのおれ、田口事務局長、ドレイ・ニシモト、パラサイト・タカノ、の4名である。荒隊員は勤務が入ってしまいあえなく参加不能。ブラック隊員は不明。

 深夜東京を出発し、東名高速を西に向かい、ロング・ドライブの末、いま我々は出発地点である春野町役場前の河原にいる。ときに、午前9時。
 空は澄み晴れ渡っているが、北風がとてつもなく強い。
 荷物をすべて降ろしたあと、おれと田口事務局長はクルマ2台で下流に向かい、1台を回送用にデポした。
 往復で1時間以上かかったので、戻ってくるころにはおれのアリーくらいは組み立ててくれているだろうと思っていたが、河原に降りてみるとパラサイト・タカノのフェザークラフトが完成しているだけで、ドレイ・ニシモトはまだフジタを組み立てている最中だ。ちゃんと練習しとけよ。
 おかげで、それからさらに1時間ほどかかって、ようやく全艇組み立て終え荷物を積み込む。

[ 出発前の記念撮影 〜 西本2:50とともに ]
 ちょっと下流寄りの河原にカナディアンを大量に積んだトラックが降りてきた。人もいっぱいいる。アウトドア・イクイップメント誌のカヌー・イベントがあるはずなのだが、どうもあれがそうらしい。出発直前になってギャラリーがいきなり増えた。

 「ギャラリー増えて嫌ですねぇ」

とドレイ・ニシモトが言う。そういうヤツの格好ときたら、ロングジョンのウェットスーツの上に、普通のシャツを着ている。遠めに見たら、上半身普段着、下半身黒タイツの変質者だ。西本2:50。

 「おまえ、その格好、なんとかしろよ。すげーヘンだぞ」
 「え? そ、そうですか? 日焼けするんじゃないかと思って着たんですが」

と、慌ててシャツを脱いでフネの奥に突っ込んだ。
 まったく、品位を疑われるようなファッションをしないでほしい。




 午前11時、フネを漕ぎだす。
 流れがかなり速い。水は濁っておりきれいとはとても言えない。おそらく雨が降ったせいだろう。

 例の瀬の手前にある河原からちょうど出発しようとしている3人のグループに挨拶し、そのまま瀬に突っ込む。
 流れが左岸に集まり崖に当たっている。右コースを維持し軽くターンをかけるが、そこは鈍重なカナディアンの悲しさ、左にぐいぐい引き寄せられる。流れが集まっている岩をぎりぎりですり抜け、クリア。

 後ろを振り返ると、すぐそこまでドレイ・ニシモトが突っ込んできている。パドリングは止まっており、流れに乗っかったまま岩に乗り上げけたぐりを食らう。
 ぐらりとフネが傾く。
 顔には、信じらんなーい、うっそー、なんじゃこりゃぁ、あたしわかんない、といった感情をごちゃまぜにしたような表情が張りついている。
 上体が水に浸かり、そして....ちーーーん!! 沈!!

「カメラ、カメラをお願いしますっ!!」
 これまで飲み会のたびに、「ぼくは沈しないような気がするんです」などと散々吹聴していたドレイであったが、出発後わずか5分足らずで公約違反である。
 ドレイ・ニシモトは必死の表情を浮かべてフネにしがみつく。
 さぁ、さっそく写真を撮ってやろうでないの、と意気込んだが、そのときドレイが叫ぶ。

 「カメラ、カメラをお願いしますっ!!」

 見れば防水ハウジングに入ったカメラがどんぶらこどんぶらこと流されていく。
 しょうがない...任せろっ! と一声叫び追いかける。無事回収。
 後から来た田口事務局長とパラサイト・タカノは、爆笑しながらドレイの写真を撮りまくっている。おれも撮りたかった。残念だ。


 岸にフネを付け、ドレイ船の水抜きを待っていると、さっきのグループがやってきた。

 「彼の初沈でーす!! 拍手をお願いします!」

と呼びかけると、笑って拍手してくれた。川に拍手が響き渡る。
 もっとも、男性2人は余裕そうだったけど、女性1人は「つぎはあたしもこうなるんじゃないかしら!?」というような不安げな表情を浮かべてたけど。

 ドレイ・ニシモトはぜいぜい息をあえがせながら、

 「まさか、あんな簡単にいっちゃうもんだとは思いませんでした。ギャラリーに見られたかなぁ....」
 「誰だよ、『行けません、行けっこないです!!』って力説してたのは。ちゃんと行けたろ、泳いでだけど。」
 「那珂川とは全然違うっす」
 「あたりまえだ」



 さて、再び出発。
 あいかわらず流れが速い。川はうねうねと曲がりくねっており、カーブごとに瀬が現われる。しかも、とても浅い。

[ いったいなにがこの身に起こったのだらふか ]
 いくつかの1級の瀬を抜けると、また崖に本流がぶつかっているパターンの瀬が現われた。ドレイ・ニシモト、そこで再び岩に乗り上げ沈。

 「またかぁ〜。まだ1キロ進んでないぞぉ」
 「はぁはぁ、ぜぇぜぇ.....」
 「どうだ、レジャー気分は抜けたか?」
 「はぁはぁ、ぜぇぜぇ.....」

 その後も、ドレイ・ニシモトは、恥ずべき降り沈、再び乗り上げ沈をし、わずか1時間ほどのあいだに4沈もした。さすが、おれが見込んでスカウトしただけのことはある。

 素晴らしい実力だ。

 しかも、最後の沈では、進歩のないことにまたカメラを流失しそうになっている。


 「だいたいねぇ、瀬の中でパドリングが停止してるぞ。漕がなきゃダメだろう」
 「それに、岩に乗り上げると、あきらめてるよな。もっとこらえないと」
 「そ、そうなんですか.....」
 「降り沈なんて、恥ずかしいマネするなよ」
 「降りるの、難しいっす」
 「それに、そんな、カレンダー狙って、沈しまくらなくてもいいんだぞ」

 晴れてはいるけれど、風が強いのでずぶ濡れになったウェットスーツだけではとても寒そうだ。

 「寒くないか?」
 「いや、平気です!!」

 4沈もしたわりにはあまりこたえてないみたいだ。かつて四万十川で粗沈し寒さに震えていた激流ブラック隊員とは大違いである。

 しばらく行くと、さっきのグループが河原で休憩していた。軽く会釈すると、

 「また、沈しましたかぁ?」
 「もう、いっぱいっ!!」

 爆笑。

 それにしても、風が強いとカナディアンの操艇が苦しい。瀬の中で横風を食らうと、ずりずりと岸にほうに寄せられてしまい、予定したコースを全然進めなくなるのだ。
 例によって崖に流れが当たるクランク状の瀬がまた現われたのだけれど、瀬に突入する寸前に風を受け、浅い岸のほうに流されてライニングせざるをえなくなった。本流には気持ちよさそうな波が立っているというのに、実に腹だたしい。

 とっても腹だたしいので、とりあえずビールを飲む。
 ビールを飲んだところで何が解決されるわけでもないのだが、とりあえず、飲む。

[ 気も抜けず、力も抜けず ]
 周囲がだんだん深い杉林に囲まれるようになってきた。ほんとうならぼんやりと漂いたいのだが、とても浅いのでこまめに進路を維持していないと簡単に座礁してしまう。それに、とにかくカーブごとに瀬が現われるので、気を抜けない。
 のどかそうに見えるわりには、なにやら忙しい川である。


 前方に2級程度の瀬が見えてきた。カーブではないのだが、水面から岩がごつごつといくつも顔をのぞかせている。

 パラサイト・タカノ、ドレイ・ニシモトがまず無事通過。まぁ、ニシモトは例によって岩に乗り上げていたが、少なくとも倒れないようこらえるくらいの進歩はしたみたいだ。

 続いておれが突入。2級といっても岩が多いだけで、波の高さも流れのパワーもどうということはない。魚野川あたりだと、ガンネルを越えて水が入ってくるが、そういうことはぜんぜんない。

 軽く岩と岩の間をすりぬけると、また目の前に岩が現われた。スカーリングで横にスリップし、そいつもよける。と、また岩である。

 岩、また、岩。

 こんな短い間隔で岩が現われると、操艇技術うんぬんというよりは、艇長のあるカナディアンではもはや物理的に通過不能なんである。


 健闘虚しくついにスターンが岩にひっかかる。そこを軸にしてフネがぐるりと一回転。なんと、2級の瀬のど真ん中でフネが逆向きになってしまった!!

 「うわわ、ちょ、ちょっと待て!!」

 後ろを振り返りながら必死にバランスをとる。当然、岩は避けちゃくれないので、あえなく乗り上げぐらりと傾く。が、そこは自称ビール・メイスン。ここ一番とふんばって、なんとかこらえる。
 乗り上げたおかげでフネが再び一回転し、まともな向きに戻った。

 ところが、そうやってくるくる回っているうちに、後からきた田口事務局長がおれのフネに衝突。2艇がだんご状態になってしまう。そこに横波を受け、2人してバランスを崩し沈寸前。

 「おわぁ、やばいっ!!」
 「い、いかんっ!!!」

 傾きながらもなんとかこらえ、無事、瀬を抜けた。

 「カナディアンがあんな傾いたの、初めて見ましたよ」
 「ちょっとヤバかったのぉ....」

 しかし、無事通過できたドレイ・ニシモトは嬉しそうだ。

 「乗り上げてもこらえられるようになってきました!」

 ちょっと理解がちがう気がする。ほんとは岩を避けなきゃしょうがないんだが、ま、いいか。

 その後も、ドレイ・ニシモトは堂々と岩に突っ込み、乗り上げ、乗り越え、を繰り返していた。

[ 顔もゆがむ強風 ]
 やがて、ものすごい強風が吹き荒れるようになってきた。おれのフネはそれこそ1メートル進ませるのにも一苦労である。というか、側面に風を受けると、沈しそうなくらい傾いてしまう。
 いい加減イヤになってきたので、このへんでやめちゃいたかったのだが、とにかく先に進まなければどうしようもない。
 必死で漕ぎ、強風地域を抜ける。

 「もう、疲れた。つぎの河原でキャンプにしよう。きっとドレイも4沈して疲れているであろう」

と宣言する。
 結局、スタート地点から12キロほど進んだところで上陸した。だいたい行程の半分くらいだ。けっこう広い河原で、流木もいっぱい転がっている。河原に通じている道はないらしく、また、対岸は杉林の崖なので、我々だけの独占キャンプサイトだ。

 着岸。



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