夏という季節は、川下りにはそれほど向いていない。日が長いのはいいけれど、テントの中は暑くて寝ていられないし、水辺では薮蚊がたくさん発生して我々が上陸するのを待っている。そして鮎師というものがいる。大体6月頃に鮎釣りが解禁されるが、そうなると、それを待ち侘びていた鮎師が川に押し寄せ、日本は釣り人の数が多いから、川はぎゅうぎゅう詰めになってしまう。それが秋口あたりまで続く。地元の人はそうでもないけれど、都会から来た人たちは、遠くからはるばるやってきて、入漁料の元を取ろうと気が立っているから、フネが自分の竿の近くを通ると怒る。石を投げつけられることもあるという。そういう人たちに気を使いながら川を下るのは億劫である。そうかと言って、どこにも行かずに夏をまるごと棒に振るのはもったいない。
湊商会は工具店のようであった。中に入って湊会長に挨拶し、荷物を受け取ってもらったお礼を申し述べた。お茶を一杯飲んで落ち着くと、会長は隣の建物に我々を連れていった。中に入るとそこはカナディアンカヌーの工房になっていて、作りかけのカヌーが二十艇くらい置いてある。まず骨組みを作って、その上から細長い木材を張っていき、FRPで仕上げるという工法で、伝統的な形をしていて大変美しい。
流れにフネを乗せると、まだ河原にいる二人の姿はあっと言う間に小さくなってしまった。川幅は50メートルくらい、両岸は鬱蒼とした森で、その上を大きく空が覆っている。水位が大分上がっているらしく、河原に生えている草が流れに洗われている。大雨の影響か、放水の影響か、水は泥で濁っているが、人工的な汚れはないようだ。しかし恐ろしく冷たい。
Wさんはテトラの方を指したのだが、刺さったままになっているはずのフネが見当たらない。と、我々の脇を無人のカヌーがするすると流れていくではないか。
翌日は朝から良く晴れた。どこまでも青く広がった空の下を十勝川は昨日と同じように豪快に流れている。それにしてもこの川は分流が多い。流れが二分、三分してはまた合流する。それが複雑に折り重なっている。上空からみたら面白いだろうなと思う。幅2メートルくらいの流れが森のなかにごうっという音を立てて吸い込まれていく、そういう細流も頻繁に見られる。
[おわり]
十勝川遠征 ツーリングデータ
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